第2章 白いブリーフ -5-

 真一は毎朝6時30分に起きる。これは小学校時代からの習慣である。
 朝起きて、顔を洗って食卓に行くと、そこにはいつも母と妹の奈緒が笑顔で待っていた。ミルクとオレンジジュース、そして焼きたてのパンケーキ。それに、メープルシロップをたっぷりかけていただく。それは真一の至福の時間だった。記者の仕事をはじめて、深夜勤務が多くなり、真一は母たちの家を離れ、近所にマンションを借りた。しかし、けっきょく、朝食だけは、実家に戻り母たちとともにした。
 この日、真一は6時30分21秒で起き上がった。
 前の晩、松本市郊外にある由紀子のマンションで、3人は大いに飲んだ。
 少々、二日酔いである。ああ、頭が濁っている。と真一は思った。
 キノコは隣の部屋で寝ているはずだった。一人暮らしなのに、由紀子は4LDKのマンションに住んでいた。
 とりあえず、顔を洗いたかった。由紀子の家の構造がどうなっているかわからなかったが、とりあえず、キッチンまでいけば、水が使えると思った。
 室内はしんとしていた。キノコも由紀子もまだ寝ているようである。
 僕が一等賞だ、くすくすっと笑いながら、真一はキッチンに向かった。
 ところがキッチンがどこなのかわからない。昨夜は3人でワインを3本あけている。
 真一は廊下の奥にあるドアを開けてみた。
 そこは赤いカーテンが窓を覆っていた。女の部屋を直感的に感じ取る真一は、そこが由紀子の部屋であることはすぐにわかった。
「あっ、ごめんなさい」と言って、ドアを閉じようとしたその瞬間、ベッドに横たわる女の裸体が目に飛び込んできた。
 うわっ、女の裸体を久しく見ていない(というか、ほとんど見たことのない)真一は思わず凝視してしまった。
 由紀子の裸体を見たいという欲望がかすかにあったのかもしれない。
姉のように、母のように慕っていた女の乳房が、そしてこんもりした陰毛がそこにあった。
赤いカーテンからの光が、由紀子の肢体をピンク色に染めていた。
真一はわなわなと震えた。そして次の瞬間、体が凍りついた。
それは白目をむいた由紀子の死体だった。首に赤いリボンが巻かれていた。
 そして手には、白いブリーフが握られていた。