第2章 白いブリーフ -7-

渋谷の東西百貨店に岡村刑事と新米の野間はいた。 野間がしきりにメモを取っている。 「そのBVRの白いブリーフ、Mサイズは月にどれくらい売れるんですか」 「まあ、一枚2500円もしますから、そうそう数は出ませんけど」 店員用の控室で、女子店員は落ち着き…

第2章 白いブリーフ -6-

「スコッチ先生、ゆ、由起子先輩がっ、あああ」 真一は狼狽していた。 「おい、真一、落ち着け。まず、死体には触るな。毛布とかもかけるな。そして、一度、部屋を出ろ。まず、ワイパックスとヒルナミンを飲むんだ。さあ、いますぐやりなさい」 真一はリビン…

第2章 白いブリーフ -5-

真一は毎朝6時30分に起きる。これは小学校時代からの習慣である。 朝起きて、顔を洗って食卓に行くと、そこにはいつも母と妹の奈緒が笑顔で待っていた。ミルクとオレンジジュース、そして焼きたてのパンケーキ。それに、メープルシロップをたっぷりかけてい…

第2章 白いブリーフ -4-

「1枚、2枚、3枚・・・ああ、7枚」 港真一は馬刺の切れ端を数えて絶句した。 「これじゃあ、由起子先輩とキノコさんと僕の3人では馬刺の数が割り切りれないよ〜」 真一は頭を抱えた。 松本市とある料理店。 「もともと松本は馬刺で有名なんです。おいしい店…

第2章 白いブリーフ -3-

毎朝新聞社役員室。河野編集担当副社長、南原編集総局長、野沢社会部部長の3人が沈黙していた。 河野はじっと階下の車の流れを見つめている。ソファーでは南原が腕組みをしており、野沢は入り口近くに立ちすくみ、2人が口を開くのを待っている。 「で」河野…

第2章 白いブリーフ -2-

午前5時。竹橋埠頭。朝もやが立ち込めている。 かすんだ空気の中に、赤いライトが点滅している。 ジョギング姿の若い女が青ざめた顔で、刑事の質問を受けている。 その水死体のおかむら刑事が見ても死後2日は経過していた。 ジョギングしていた女は水際に渦…

第2章 白いブリーフ -1-

ボウモアのオン・ザ・ロックの芳香が漂う。 それを覆いつくすように、シガーの煙が室内を支配する。 「うーん、葉巻はやっぱりキューバ産に限りますなあ。最近、いろいろ出てるけど、やっぱり最後はコイーバに落ち着く」 甲高い声で、男がソファーに身を沈め…

第1章 13段の階段 -6-

真一は事態を飲み込むのに、1週間を要した。 社から下された1カ月の自宅待機はむしろ、真一にとっては救いとなった。 あの一日で、すべてが変わってしまった・・・と真一は思う。 カーテンはぴっちり閉ざされ、小さな室内灯がともっている。壁際に広がるフラ…

第1章 13段の階段 -5-

「暴走記者、謎の下着交換と疑惑の供述」 「週刊ぶんち」4月28日号にこんな見出しが載った。真一が巻き込まれた謎の遺体すり替え事件は、恰好の三面記事ネタとして連日、タブロイド紙を中心ににぎわいを見せた。特に、真一が一流新聞社の社員だということで…

第1章 13段の階段 -4-

「モデル・エージェンシー・エスプリ」という表札がかかっている。 さえない名前だな、モデル事務所なのに、と真一は思った。 まあ、モデル事務所が新大久保の歓楽街のはずれの雑居ビルの2階にあること自体が不思議ではあるがと、真一は思い直した。 階段を…

第1章 13段の階段 -3-

遠くで山の手線の電車の音がする。新大久保の歓楽街近くの雑居ビルの前にたっている。 真一にとっては屈辱のいでたちである。 すり切れた短いジーパンに、ミッキーマウスのたぼたぼのTシャツ。片手に真一のジェラルミンのバッグ、片手にマディソン・スクエア…

第1章 13段の階段 -2-

「なんだよ〜。おでんにカレーパンか」 飯田は落胆していた。新宿三丁目の小さなレストラン。いかにも通好みの店だ。 「違いますよ。ボルシチにピロシキですよ。ここは新宿のロシア料理店ではいちばんの美味、です」 真一は膝の上にハンカチを敷きながら言っ…

第1章 13段の階段 -1-

港真一はテーブルの隅から20センチのところに置いた腕時計を見た。 母から30歳の誕生日にもらったロレックスのエクスプローラーだ。 「あー、もう時間切れだ」 取材相手が喫茶店に現れるまでに、あと10分しかない。 その間に、テーブルの上の品々の配置を整…