第1章 13段の階段 -5-

「暴走記者、謎の下着交換と疑惑の供述」


「週刊ぶんち」4月28日号にこんな見出しが載った。真一が巻き込まれた謎の遺体すり替え事件は、恰好の三面記事ネタとして連日、タブロイド紙を中心ににぎわいを見せた。特に、真一が一流新聞社の社員だということで、叩き具合は過熱化していった。中には「週刊ぶんち」のように毎週、キャンペーンを組む雑誌まで出てきた。同誌にはさらに次のような内部リークコメントも披露されて泥沼化の様相を呈してきた。


「またかあ、という感じでしたね。彼の虚言癖は社内でも有名でしたからね。1年前の一流料亭の化学調味料使用疑惑記事では、最後まで自説を押し通し、ずいぶんうちの社もあることないこと書かれましたから。最後は直属の女性上司も彼をかばい切れずに、彼女は地方支局へ左遷。まあ、彼女が彼のお守役というか、まあ、あそこも倒錯した溺愛関係にあったから、当然ですけどね。M君が弁当食って口が汚れていたりするとハンカチでぬぐってやったりしていましたから。彼女が左遷されて、M君も島流し。しかし、なぜ、それが社会部なのかは不明ですけど(笑)。しかし、彼には下着交換とかああいう趣味もあったんですね。まあ、どうでもいいけど。彼は今、謹慎中ですが、そろそろ辞表を出すといううわさもあるし、これで会社も静かになるでしょう」(毎朝新聞某記者)


「彼はすでに何度か事情聴取を受けています。相変わらず、新大久保のあの雑居ビルに、少女の2死体が横たわっていたと主張しているようです。鑑識捜査でも、少女たちが存在していた根拠は何も出てこなかったんですけどね。取り調べ中の彼は、終始、テーブルの上の書類やボールペンの位置などを気にしていたようです。昼食に出たかつ丼はまずそうに、米ひとつ残さず食べたあと、丼を洗わせてくれ、と聞かなかったらしいです。また、トイレでは、10回以上手を洗ったほか、トイレ内を右へ左へと真四角に動き回っていたらしいです。最後には、パニックを起こし、便器の奥に手を突っ込み、何かを調べていたそうです。その後、汚れた手を消毒したい騒ぎは・・・もう、この話は話したくないです。捜査員たちも少々、怯えていましたね」(新宿北警察署関係者)


 そしてネタが尽きると、彼の親子関係、これまでの女性関係、グルメ趣味など、話題はどんどん膨らみ、「ハンカチウォッチャー」と呼ばれる人々が次々とブログを立ち上げ始めていた。